大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成10年(ワ)8253号 判決

第一事件原告

出川忠次

ほか一名

被告

新子宏明

ほか一名

第二事件原告

河口正

被告

出川忠宏

主文

一  被告新子は、原告忠次に対し、金三万円及びこれに対する平成七年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告新子は、原告三井海上に対し、金四六万七一一〇円及びこれに対する平成七年一二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告忠次及び原告三井海上の被告新子に対するその余の請求及び被告河口に対する請求をいずれも棄却する。

四  被告忠宏は、被告河口に対し、金一一万四七〇〇円及びこれに対する平成七年八月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告河口のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は、第一、第二事件を通じ、これを五分し、その二を原告忠次、原告三井海上及び被告忠宏の、その余を被告新子及び被告河口の負担とする。

七  この判決は、一、二及び四項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

(第一事件)

1  被告新子及び被告河口は、連帯して、原告忠次に対し、金五万円及びこれに対する平成七年八月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告新子及び被告河口は、連帯して、原告三井海上に対し、金八九万四〇一七円及びうち金七七万八五一七円に対する平成七年一二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(第二事件)

被告忠宏は、被告河口に対し、金二八万七七五〇円及びこれに対する平成七年八月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、次の交通事故による車両の損傷に関し、被告忠宏運転車両については、修理費のうち五万円を代位弁済した原告忠次及び自動車保険契約を締結している原告三井海上が修理費の残額等について保険金を支払ったことによる求償を相手方車両の運転者である被告新子(民法七〇九条)及び被告河口(民法七一五条)に求め(第一事件)、被告新子運転車両の所有者である被告河口が車両の修理費等を被告忠宏(民法七〇九条)に求めた(第二事件)事案である。

一  争いのない事実等(証拠により認定した事実については、証拠を掲記する。)

1(本件事故)

(一)  日時 平成七年八月一九日午後六時二〇分ころ

(二)  場所 奈良県北葛城郡広陵町大字百済一六四三番地先路上(市道)の交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)

(三)  新子車両 被告河口所有、被告新子運転の普通貨物自動車(奈良四五せ二九〇四)

(四)  出川車両 被告忠宏所有、運転の普通乗用自動車(奈良三三に一三九〇)

(五)  態様

(1) 本件事故現場は、東西道路と南北道路とが交差している交差点である。

(2) 東西道路の道幅は片側一車線三・〇メートルで、センターラインがあり、南北道路は、全幅五・八メートルの道幅でセンターラインはなく、一時停止規制がなされている。

(3) 出川車両が東西道路を東から西に向かい進行し、本件交差点に進入したところで、南北道路を北から南に向かい走行中の新子車両が一時停止後、左側の出川車両を認めながらなお発進し、そのまま本件交差点に進入したため、新子車両の前部を出川車両の右側部に衝突させ、出川車両を破損した物件事故

2(被告新子、被告忠宏の責任)

被告新子、被告忠宏には、それぞれ民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

3(出川車両の損害)

(一)  修理費 七九万三五一七円

(二)  レッカー代 三万五〇〇〇円(甲五、弁論の全趣旨)

4(被告河口の損害)

(一)  車両修理費 二三万一七五〇円(乙二)

(二)  レッカー代 三万円(弁論の全趣旨)

5(原告忠次の求償権)(甲四、七)

原告忠次は、出川車両の修理代金七九万三五一七円のうち、自動車保険契約の免責分として五万円を原告忠宏の承諾を得て、修理工場である西川自動車へ、平成七年一二月四日、支払った。

6(原告三井海上の求償権)(甲二ないし七)

原告三井海上は、平成七年四月五日、契約者である原告忠次との間に締結していた自動車保険契約に基づき、次の保険金を支払った。

(一)  平成七年一〇月一六日、出川車両の修理代金七九万三五一七円から原告忠次の免責分五万円を差し引いた残金七四万三五一七円を修理工場である西川自動車に支払った。

(二)  同年一二月二七日、レッカー代として三万五〇〇〇円を原告忠次に支払った。

(三)  右合計七七万八五一七円

二  争点

1  被告河口の責任

被告河口は、被告新子を従業員として雇用し、自己の事業の執行に当たり使用していたが、その業務執行中に本件事故を発生させたのであるから、被告河口は、民法七一五条に基づく損害賠償責任がある。

2  過失相殺

(被告新子、原告河口)

被告忠宏の過失は少なくとも七割とすべきである。

(原告忠次、原告三井海上、被告忠宏)

被告新子の過失は八割が相当である。

3  原告三井海上、被告河口の弁護士費用

(一) 原告三井海上 一一万五五〇〇円

(二) 被告河口 二万六〇〇〇円

4  消滅時効

(被告忠宏)

本件事故は、平成七年八月一九日に発生したもので、平成一〇年八月一九日の経過により三年が経過し、時効が完成した、被告忠宏は右時効を援用する。

(被告河口)

本件事故については、第一事件の訴え提起直前まで、被告忠宏の代理人である原告三井海上と被告河口の代理人である富士火災海上保険株式会社(以下「富士火災」という。)との間で、示談交渉が行われ、原告三井海上は被告忠宏三割、被告新子七割の過失割合を主張し、富士火災は双方五割を主張し、交渉は平成一〇年六月二五日まで継続したが、成立に至らなかったもので、原告三井海上は、過失割合はともかく被告忠宏に過失があること、すなわち、被告河口の損害について被告忠宏に賠償責任があることは認めていたのであるから、債務の承認により、平成一〇年六月二五日までは、時効は中断していた。

第三判断

一  争点1(被告河口の責任)

被告河口が被告新子を雇用している事実を認めるに足りる証拠はないから、原告忠次及び原告三井海上の被告河口に対する第一事件請求は理由がない。

二  争点2(過失相殺)

争いのない事実1(本件事故)及び証拠(甲八ないし一〇、乙一、被告忠宏本人、被告新子本人)によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場の状況は、別紙交通事故現場見取図記載のとおりであり、東西道路(最高速度時速四〇キロメートル)と南北道路とが交差する交通整理の行われていない交差点(本件交差点)で、東西道路には本件交差点内にも中央線が表示されており、南北道路は、全幅五・八メートルの道幅で中央線の表示はなく、本件交差点手前で一時停止規制がなされている。

2  被告忠宏は、出川車両を運転して、時速五〇ないし六〇キロメートルで東西道路を東から西に向かって本件交差点に至ったが、〈ア〉地点で〈1〉地点(距離約四七・五メートル)の新子車両を発見し、そのまま進行して〈イ〉地点に至り本件交差点に進入してきた新子車両を〈2〉地点(距離約一〇・二メートル)に認めて、危険を感じ速度を上げてこれを回避しようとしたが間に合わず、出川車両の右側後部に新子車両前部が衝突した。

3  被告新子は、新子車両を運転して、南北道路を北から南に向かって本件交差点に至り、〈1〉地点で一時停止し、東西道路を進行してくる出川車両を〈ア〉地点に認めたが、先に横断可能であると考え、発進し時速約一五キロメートルで進行したが、〈2〉地点に至り〈イ〉地点の出川車両を認めて危険感じ急制動の措置を講じたが間に合わず、出川車両に衝突した。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右に認定の事実によれば、被告忠宏は制限速度超過及び本件交差点手前で進入してくる新子車両認めながら制動措置をとらず加速した点、被告新子は優先道路に進入するについて同道路を進行してくる出川車両を認めながら、その距離及び速度を見誤り自車が先に本件交差点を通過できると軽信して本件交差点に進入した点にそれぞれ過失がある。

以上の事実を総合すると、被告忠宏と被告新子との過失割合は、被告忠宏四割、被告新子六割とするのが相当である。

そこで、出川車両の損害からその四割を新子車両の損害からその六割を控除すると、次のとおりとなる。

1  原告忠次の求償権 三万円

なお、遅延損害金の起算日は支払日の翌日である平成七年一二月五日からとすべきである。

2  原告三井海上の求償権 四六万七一一〇円

3  被告河口の損害 一〇万四七〇〇円

三  争点3(原告三井海上、被告河口の弁護士費用)

(一)  原告三井海上

原告三井海上が保険代位によって取得する損害賠償請求権の範囲は、支払額の範囲に限られるから、弁護士費用の請求は理由がない。

(二)  被告河口 一万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、一万円と認めるのが相当である。

四  争点4(消滅時効)

証拠(甲一二、乙四ないし六、弁論の全趣旨)によれば、本件事故について、被告忠宏の代理人である原告三井海上と被告河口の代理人である富士火災との間で、示談交渉が行われ、原告三井海上は被告忠宏三割、被告新子七割の過失割合を主張し、富士火災は双方五割を主張し、交渉は平成一〇年六月二五日まで継続していたことが認められ、第一事件の訴え提起は平成一〇年八月七日、第二事件の訴え提起は平成一〇年一一月五日であることからすると、被告忠宏の代理人である原告三井海上は、損害賠償額はともかくとして、被告忠宏が被告河口に対し本件事故に基づく損害賠償債務を負うことは認めていたものであり(本件事故態様からすれば、被告忠宏が損害賠償債務を負わないことを前提に示談交渉をしたということは考えられない。)、最終交渉日である平成一〇年六月二五日、債務承認により時効は中断しており、第二事件の訴え提起時に消滅時効は完成していないから、消滅時効の主張は理由がない。

五  よって、原告忠次の被告新子に対する第一事件請求は三万円、原告三井海上の被告新子に対する第一事件請求は四六万七一一〇円の支払を求める限度で理由があり、原告忠次及び原告三井海上の被告河口に対する第一事件請求は理由がなく、被告河口の第二事件請求は一一万四七〇〇円の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 吉波佳希)

別紙 〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例